クアラルンプール、ロンドン、プラハと渡り、この旅4都市目にウィーンへ降り立った。
クアラルンプール→ロンドン→プラハ→ウィーン→ヴェネツィア→バルセロナ。6都市を渡る旅の記録は、こちらのルート記事にまとめている。この記事はその4章目、ウィーンの2泊3日について書く。
予定のない旅。ウィーンの風に身を委ねる4カ国目の記録
行き先を決めない贅沢。心の赴くままに歩く大人のソロトラベル
プラハからウィーンへは、Omioで予約したバスで陸路を移動した。国境を越えるという感覚も薄いまま、気づけば音楽の都に降り立っていた。
宿泊先のJimmy’s Apartments Loryへ直行し、チェックインを済ませる。


寝室と、小さなキッチンがひとつ。派手さはないが、2泊を過ごすには十分すぎる部屋だった。
👉 Jimmy’s Apartments Loryの空室状況を見る(Trip.com)
荷物を置き、一息ついてから、ガイドブックを開くことなく街へ出た。地図で目的地を決めるのではなく、その時の気分で足を向ける方角を選ぶ。それだけのことが、旅の自由度を大きく変える。
ぶらぶらと歩くうちに空腹を覚え、目に留まったStöckl im Parkでシュニッツェルを食べた。予定していた店ではない。ただその瞬間、そこに座りたいと思っただけだ。
日が傾いてもなお歩き続け、たどり着いたのがカールス教会だった。

Klookで予約していたヴィヴァルディ「四季」のコンサートが、この夜の唯一の予定らしい予定だった。
👉 Klookでヴィヴァルディ「四季」コンサートチケットを予約する

席はミドルセクション。教会の中に響く弦の音を聴きながら、昔、自分もピアノとトランペットを弾いていたことを思い出す。楽器から離れて久しいが、生の演奏を前にすると、指や唇が覚えている感覚だけがふと蘇る。
演奏の途中、教会の音響設備から終演を告げるアナウンスが誤って流れるというハプニングが起きた。奏者たちは手を止めることなく、その空気を笑いに変えて、そのまま演奏を続けた。慌てず、崩れず、むしろ場を和ませる余裕。プロフェッショナルとはこういうことかと、静かに感心した。

天井を見上げながら弦の音を聴く。予定を持たない一日の終わりに、これだけは決めておいてよかったと思った。
スーツケースを持たない軽やかな足取り。キャリーオンだけで巡る欧州周遊
チェックインを済ませたら、メインの荷物である英国製の「Billingham」は部屋に置いていく。街へ出るときに肩にかけるのは、機材を収めた「Brady」のショルダーバッグひとつだけだ。
石畳の街を歩くたびに思う。スーツケースはおろか、大きな鞄すら引きずっていたら、この軽やかさは生まれなかった。ウィーンの旧市街を歩き回れたのも、この2個持ちのスタイルがあってこそだ。
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ファインダーが捉えた偶然。愛機α6400と歩くウィーンの街角
気の向くまま切り取る、ウィーンの街角
観光名所をスタンプラリーのように巡る予定は立てていなかった。ベルヴェデーレ宮殿へ向かうと決めたのも、Heinerでザッハトルテを頬張っている最中のことだ。その場でスマートフォンを開き、Klookで午後の予約を押さえる。数少ない「決めていたこと」のひとつが、こうして生まれた。
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宮殿までの道のりも、最短ルートを検索することはしなかった。目についた方向へ、ただ歩く。見上げれば、シュテファン大聖堂の尖塔がまず視界に入った。

大聖堂の周辺には、辻馬車が客待ちをしていた。御者は山高帽をかぶり、19世紀からそのまま抜け出てきたような佇まいだった。

ホーフブルク王宮の前まで来ると、緑青色のドームが雲間から覗く空によく映えた。

グラーベン通りに出ると、一転して人の波に呑まれる。あとで知ったことだが、この日はちょうど祝日だったらしい。ペスト記念柱を中心に、買い物客と観光客が入り混じり、身動きが取りづらいほどの人出だった。

大通りを一本外れれば、また静かな路地に戻る。ヴィーナーヴァルトの看板の奥に、シュテファン大聖堂の尖塔が覗く路地。α6400を構えたのは、こういう瞬間だった。

歩いていて足を止めたのは、路地裏の靴店のショーウィンドウだった。店の名は「Schuhwerkstatt Petkov」、1905年創業のシューメーカーだという。並んだ靴の中でも、ひときわ大きな一足が目に飛び込んできた。木型が収まったその革靴が、磨き込まれた光沢を放っている。九年前、ロンドンへ渡る前にノーサンプトンの工場やサヴィル・ロウを訪ね歩いていた頃のことが、不意に頭をよぎった。

さらに歩けば、リング沿いの大きな通りに出る。宮殿のような建築が、何の変哲もない道の両側に並んでいた。

有名な建築を撮ることよりも、その手前にある名もなき路地や、差し込む光の方に目が向く時間の方が長かった。それでも、ベルヴェデーレ宮殿の中では話が別だ。
上宮のギャラリーに入ると、まず目に留まったのは金地の祭壇画だった。中世の聖人たちが、静かにこちらを見つめている。

そこから歩を進めた先にあったのが、クリムトの「接吻」だった。金箔の装飾に包まれた男女の姿を、しばらく動けずに眺めていた。

一度、庭園に出る。テラスから見渡す先には、幾何学模様の庭園越しにウィーンの街並みが広がっていた。

再び宮殿の中に戻ると、大理石の間の天井を見上げた。シャンデリアの向こうに、青空を背景にした人物群像のフレスコ画が広がっている。

隣の間の天井にも、金と白を基調にした装飾が続いていた。

最後に外へ出て、あらためて宮殿の正面を見上げた。緑青色の屋根と白い外壁が、青空によく映えていた。

祭壇画も、クリムトも、天井のフレスコも、どれも足を止めて見入ってしまうものばかりだったが、結局いちばんシャッターを切ったのは、宮殿そのものよりも、そこに至るまでの何気ない街角だった。
撮影機材の選び方については、こちらに詳しく書いた。
👉 α6400とOsmo Pocket 4。身軽さと質を両立する、2台体制という選択
モノではなく体験を記憶に刻む旅の品格
6カ国を渡るこの旅の、まだ4カ国目。ここでお土産を買えば、残り2カ国分の荷物として抱えて歩くことになる。キャリーオンだけで進むと決めた旅では、その選択肢はそもそも取れない。だから、モノを持ち帰る代わりに、その場で使い切る体験に時間を割くことにした。

Kärntner Str. 21にあるHeinerで、まず一皿のザッハトルテを食べる。本命は元祖と名高いCafé Sacherのつもりだったが、店の前まで行くと長蛇の列ができていて、並ぶ気にはなれなかった。列に時間を費やすより、近くで空いている店に入る方が性に合っている。そうして選んだのがHeinerだった。生クリームを添えたその一切れを味わいながら、同じ日にもう一軒寄ることを決めていた。ベルヴェデーレ宮殿を歩いたあと、Argentinierstraße 49のCafé Goldeggで、同じザッハトルテをもう一度頼んだ。

同じ名前の菓子でも、店が違えば味も食感も違う。一日に二軒でザッハトルテを食べ比べるという、いくらか大人げない贅沢が、この街での記憶をひとつ濃くした。。満腹のまま宿へ戻り、2日目を終えた。
3日目は5月30日。ヴェネツィアへのフライトは17時35分発だった。チェックアウトを済ませても、まだ時間はたっぷり残っている。その空いた時間で、もう少しだけ街を歩くことにした。目的地は決めていない。リング沿いを進むと、まず現れたのが国会議事堂だった。柱の上には黄金の兜をかぶったパラス・アテナ像が立っている。

そこから少し歩けば、尖塔をいくつも持つ市庁舎に行き着く。この日は建物にオーストリア国旗が何本も掲げられていた。

市庁舎前の公園を抜けると、フォルクスガルテンのバラ園に出た。曇り空の下でも、赤やピンクのバラが咲き誇っていた。

さらに歩みを進めると、再びホーフブルク王宮の敷地に戻ってきた。今度は先ほどとは反対側、半円を描く新王宮(ノイエ・ブルク)のファサードだ。その上には、金色の鷲の像が翼を広げている。手前の英雄広場では、テントやブースが並び、思いがけず賑わっていた。あとで調べて分かったことだが、オーバーエスターライヒ州が観光や食文化をアピールする祭り「OÖ Sommerfrische」が、ちょうどこの5月30日と31日の2日間、この広場で開かれていたらしい。予定に入れていたわけでもないのに、たまたま居合わせた祭りに出くわす。これも、きままな旅ならではの巡り合わせだ。

決めていたのはコンサートとベルヴェデーレ宮殿だけだったはずが、気づけばリング沿いの主要な建築を、ほとんど歩き尽くしていた。
まとめ:余白があるから美しい。きままに歩くウィーンの一人旅
旅に「予定」や「目的」を詰め込まないからこそ、街の本当の表情に出会える。ウィーンでの2泊3日は、決めていたことがコンサートとベルヴェデーレ宮殿くらいしかない、余白だらけの時間だった。だがその余白の中で、シュニッツェルを食べ、路地の光を撮り、ザッハトルテを食べ比べた。予定のなさが、かえって記憶を豊かにしている。
この旅で使ったもの
eSIM 4カ国目の到着で、すでに切り替え済みだった。空港を出た瞬間から地図が動く。それだけで、旅の最初の緊張が一つ消える。
👉 KlookのeSIMで現地通信を整える
クレジットカードウィーンの滞在中、現金を使う場面は一度もなかった。ホテルも、レストランも、移動も、カードで完結した。複数枚の使い分けが、海外での安心感をつくる。
カメラ α6400 + 18-135mm。この旅での主力レンズ。ズームの自由度は高く、様々なシーンに対応できた。
リング沿いを歩き終えたあと、空港へ向かう前に立ち寄ったカフェで、パンオショコラとコーヒーを流し込む。空港ではPriority Passでラウンジに入り、17時35分発の便まで静かに過ごした。
余白の多い2泊3日だった。決めていたことは少なく、それでも記憶に残るものは多かった。
次の目的地はヴェネツィアだ。


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