ロンドンの誕生日まで、寄り道をひとつ。ペトロナスタワーとバトゥ洞窟、クアラルンプールで過ごした2泊3日

バトゥ洞窟の金色の像の背後から見渡す、参道の賑わいとクアラルンプールの街並み 旅の記録
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バースデートリップは、2023年から続けている。初回はオーストラリアのゴールドコースト、2回目はタイのバンコクからベトナムのダナン、ハノイへ。まだ行ったことのない国は、数え切れないほど残っている。3回目となる2025年も、どこの国に行こうか散々迷った。だが40歳という節目の歳を前にして、原点に戻るのも悪くないと思った。そうして、5月24日の誕生日をロンドンで過ごすことに決めた。

スカイスキャナーを開き、いくつもの経路を見比べた。ロンドンへ直接飛ぶよりも、行ったことのない街をひとつ挟んでから向かいたい。そう考えていた。直行便もあれば、ドバイやシンガポール、香港を経由する便もある。並んだ選択肢の中から、料金面での条件も良かったクアラルンプールに2泊してから、ロンドンへ向かうことに決めた。

クアラルンプール→ロンドン→プラハ→ウィーン→ヴェネツィア→バルセロナ。6都市を渡る旅の記録は、こちらのルート記事にまとめている。この記事はその1章目、ロンドンへ向かう前に寄り道したクアラルンプールについて書く。

一人で移動していると、旅程の組み方そのものが自由になる。誰かに合わせて予定を組む必要がなく、自分の興味と条件だけで、寄り道する街も滞在日数も決められる。この寄り道も、そうした一人旅ならではの裁量のひとつだ。


初めての街に、寄り道する。クアラルンプールという選択

好奇心と料金という、いたって単純な理由で選んだ寄り道先だった。それでも、2泊すると決めた時点で、この街はもう単なる寄り道ではなく、旅の目的地のひとつになっていた。ロンドンの後に訪れるプラハ、ウィーン、ヴェネツィア、バルセロナも、すべて初めて足を踏み入れる街だ。その最初の一歩として、クアラルンプールを選んだ。

クアラルンプールに、特別な理由があったわけではない。行ったことがない、というだけで十分だった。地図を眺め、まだ知らない街に自分の足で立ってみる。それだけのことが、旅の質を変えてくる。ロンドンで誕生日を過ごすという目的地が決まっていたからこそ、その手前にもうひとつ、目的のない街を挟む余裕が生まれた。

移動時間そのものをどう捉えるか。若い頃はそこに考えを巡らせることすらなかった。目的地さえ良ければ、道中はただの通過点として処理していた。だが40代を迎えた今、道中の過ごし方こそが旅全体の輪郭を決めていると気づく。目的地に着いてからではなく、出発したその瞬間から、旅は静かに始まっている。

コロナ禍で海外に出られない時期が長く続いた。その間、旅先は自然と国内に限られていた。日本国内であれば、これまでに46の都道府県を巡っている。同じ土地を再び訪れることもあるが、それは意図して選んできたわけではなく、単に行き尽くしたからにすぎない。海外へまた出られるようになった今、訪れる先の多くは自然と初めての街になる。クアラルンプールも、そのひとつだった。


初日|ペトロナスツインタワーの威容と、静かな一杯

クアラルンプールに着いたのは、午前7時頃だった。荷物をホテルに預けるにはまだ早い時間だ。そのまま街へ出て、カメラを片手に歩き始めた。

朝の光の中を歩きながら、途中でコーヒーを一杯飲む。慌ただしく観光地を巡るのではなく、こうして一杯のコーヒーに時間を使えることが、初めての街を歩く上での余裕になる。

早朝のクアラルンプールの街並みと、朝の光に照らされた通り

そのままペトロナスツインタワーへ向かった。写真では何度も見てきた建物だが、実際に見上げると、その高さと威容は想像を超えてくる。朝の澄んだ空気の中、タワーのシルエットが空に伸びている。

朝のクアラルンプール、青空にそびえるペトロナスツインタワー

タワー周辺で写真を撮った後、BACHA COFFEEに立ち寄った。1910年、モロッコのマラケシュで創業した老舗のティー・コーヒーブランドで、クアラルンプールの店舗も優雅な内装で統一されている。オレンジと白を基調にした食器、意匠を凝らした椅子。腰を下ろすだけで、街の喧騒から一歩離れた気分になる。

注文したコーヒーには、バニラビーンズ入りのシャンティクリームが添えられて出てきた。合わせて頼んだのはミルフィーユ。パイ生地とクリームの層が重なる一切れを、香り高いコーヒーとともにゆっくり味わう。慌ただしく観光地を巡るのではなく、こうして一杯のコーヒーに時間を使えることが、初めての街を歩く上での余裕になる。

クアラルンプールのBACHA COFFEE店内。優雅な内装とコーヒーの香りに包まれた空間

ここで一息入れてから、拠点に選んだThe Platinum Kuala Lumpur by Whitfieldへチェックインした。デラックススイート、1ベッドルームのキングルームで、広さは79㎡。早朝から歩き通した身体を、ようやく部屋に落ち着けられる。

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初日の夕食は、NASI KANDAR PELITAで。フードコートのような気取らない雰囲気の中、現地の人々に混じって食事をする。頼んだのは、チーズナンと数種類のカレー、そして肉のカレー煮込み。ナンをちぎってカレーにひたし、パイナップルジュースで喉を潤す。これが、初めてのクアラルンプールで口にした最初の一皿だった。

NASI KANDAR PELITAで食べた初日のディナー。チーズナンと数種類のカレー、肉のカレー煮込み、パイナップルジュース

二日目|バトゥ洞窟から、札幌と繋がる一杯へ

二日目は、郊外のバトゥ洞窟へ向かった。金色の巨大な像が出迎える階段の下に立つと、その規模に圧倒される。272段の階段を上りきると、石灰岩の洞窟内に寺院が広がっていた。像のそばまで来て振り返ると、参道を行き交う人々と、その先に広がるクアラルンプールの街並みが一望できた。異国の信仰の場に足を踏み入れる緊張感と、静かな高揚感が入り混じる時間だった。

バトゥ洞窟の金色の像の背後から見渡す、参道の賑わいとクアラルンプールの街並み

街へ戻る前に、昼食を済ませた。頼んだのは、アヤム・ペニェット。骨付きの鶏肉をカリカリに揚げたインドネシア風フライドチキンで、ライスとレタス、揚げたテンペ、赤いチリソースが添えられる。マレーシアやインドネシアの食堂で親しまれている定番の一皿だ。屋台に近い簡素な店だったが、揚げたての鶏肉とスパイスの効いたソースの組み合わせが、暑さで疲れた身体にちょうどよかった。

バトゥ洞窟からの帰り道に食べた昼食。アヤム・ペニェット。骨付きの揚げ鶏とライス、揚げたテンペ、赤いチリソースが並ぶプレート

街へ戻り、向かったのはBARISTART COFFEEのクアラルンプール店。札幌で馴染みのある店がここにもあると知っていて、あえて足を運んだ。遠く離れたこの街で、見慣れた名前の店に入る。それだけで、少し不思議な安心感を覚えた。

KLのBARISTART COFFEE

その後、セントラルマーケットを歩いた。ガラスケースの中には、銀細工の茶器や装飾品、鞘に彫刻を施したクリス(マレーの短剣)がずらりと並ぶ。土産物というより、伝統工芸の展示を眺めているような時間だった。目的を決めずに歩くことができるのも、身軽な一人旅だからこそだ。

セントラルマーケット

夕食は、通りすがりに見つけた店でビリヤニを食べた。看板も特に目立つものではなかったが、ふと漂ってきたスパイスの香りに誘われて足を止めた。こういう予定外の一皿との出会いが、旅の記憶に強く残る。

ビリヤニ

2泊3日、クアラルンプールで過ごした時間は、この旅の目的地のひとつだった。街の空気、食事、人々の営み。これから始まるロンドンへの旅の前に、もうひとつの旅が挟み込まれた感覚だった。


喧騒を遮断する場所。サテライトラウンジで過ごす出発前の一時間

2泊を終え、いよいよ西欧へ向けて出発する日を迎えた。ホテルでシャワーと身支度を済ませ、身軽な状態のまま空港へ向かう。マレーシア航空のオンラインチェックインはすでに済ませてあったため、空港でカウンターに並ぶ必要はない。9時50分発のロンドン行きに備え、余裕を持って保安検査へ進んだ。クアラルンプール国際空港は、とにかく広い。サテライトターミナルへ向かうだけでも相応の距離を歩くことになり、動く歩道の上を、スーツケースを引いた旅行者たちが絶え間なく行き交う。案内表示を追いながら人の流れに乗る時間そのものが、すでに小さな旅の一部だと感じる。搭乗案内のアナウンスが多言語で流れ、行き交う人々の足音や話し声が、絶え間なく耳に届いてくる。

その喧騒から一歩足を踏み入れると、空気が変わる。ラウンジの扉の内側には、静寂と、淹れたてのコーヒーや温かい料理の香りがある。セゾンプラチナ・ビジネスに付帯するプライオリティ・パスと、搭乗券を提示するだけで、この一室に入ることができる。ソファに腰を下ろし、バッグを隣に置いた瞬間、搭乗までの時間の意味が変わる。

クアラルンプールからロンドンへのフライト前、プライオリティ・パスで過ごす静寂なラウンジ。機内持ち込みサイズのBillinghamとBradyの2つだけという身軽な装備が、搭乗までの時間に大人の余裕を生み出す

窓の外には滑走路が広がり、朝の光を浴びた機体が絶え間なく行き交う。その景色を眺めながら、温かい飲み物を片手に、これから始まる西欧での日々に思いを馳せる。ここには誰の視線もなく、誰かに急かされることもない。長距離移動の合間に生まれる、この完全な静けさが、何よりの贅沢だ。

滞在していたThe Platinum Kuala Lumpur by Whitfieldに朝食は含まれていなかった。そのため、この一時間で軽く朝食を済ませておくことにした。パンとフルーツ、温かいコーヒー。多くを求めなくていい。空腹のまま長距離フライトに乗り込むよりは、少しでも腹に入れておく方が安心できる。こうして食事まで用意されているラウンジという空間そのものが、旅の質を左右する見えない部分なのだと実感する。

ソファに深く腰掛け、スマートフォンで次の滞在先の地図を眺める。誰かと会話をする必要もなく、誰かのペースに合わせる必要もない。この完全に一人だけの時間の使い方こそ、ソロトラベルの醍醐味だと思う。周囲の乗客が慌ただしく行き交う中、ここだけ時間の流れがゆっくりとしている。

この贅沢な一時間が、旅を根本から変えてくれる。空港での待ち時間とは本来、何もできずにただ座って消化するだけの時間だ。それが、ラウンジという環境ひとつで「心を満たす時間」に置き換わる。頭の中が静かに整っていく感覚がある。西欧までの長いフライトを控えているからこそ、この一時間の価値は大きい。

スーツケースを持たない機内持ち込みだけの装備が生み出す、搭乗間際の圧倒的なゆとり

この旅にスーツケースはない。あるのは、Billinghamのバッグと、α6400を収めたBradyのバッグ、この二つだけだ。クアラルンプールを含めた全6都市を渡るために厳選した装備だけを、それぞれに詰めている。それ以外のものは、最初から旅に連れてこない。

かつては大きなスーツケースを引いて世界を渡っていた時期もあった。荷物のターンテーブルの前で、見覚えのある柄のバッグが出てくるのをただ待ち続ける。あの時間が、旅の始まりにも終わりにも、無言の重石のようにのしかかっていたことに、手放してから気づいた。

機内持ち込みだけで完結する旅の何が良いか。それは、その待ち時間が丸ごと消えることだ。ロストバゲージという概念そのものが存在しない。乗り継ぎの合間、預け荷物の行方を気にする必要もなく、搭乗ゲートが変わっても身ひとつで動ける。この身軽さが、ソロトラベルの質を静かに底上げしている。

ラウンジでの一時間を終え、搭乗案内のアナウンスが流れる。荷物をまとめる動作すら数秒で終わる。Bradyを肩にかけ、Billinghamは手に提げる。ゲートへ向かう足取りに迷いはない。この軽やかさこそ、大人のミニマリズムが旅にもたらす、何よりの恩恵だと思っている。

撮影機材を含めても、この2つのバッグに全てが収まっている。何をどこに入れたか、頭の中で完全に把握できている状態。荷物が多ければ多いほど、この把握は難しくなる。厳選し、削ぎ落とし、必要なものだけを持つ。その結果として得られるのが、身体的な軽さだけでなく、頭の中の余白でもある。


心と身体を整え、遥かなる街の角へ

ラウンジで調律を終え、いよいよロンドン行きの機内に乗り込む。喧騒の中を歩いてきたはずのターミナルも、今は遠い記憶のように静かだ。心も身体も、次の長距離飛行に向けて整っている。

座席に腰を下ろし、シートベルトを締めながら、この先の5都市に思いを巡らせる。ロンドン、プラハ、ウィーン、ヴェネツィア、バルセロナ。どの街も、まだ見ぬ空気を纏っている。だが今この瞬間、行き先への期待よりも先に感じているのは、静かな充足感だ。出発前にすでに、旅は始まっている。

身軽な装備と、研ぎ澄まされたインフラの手配があるからこそ、見知らぬ街の角に立っても迷わずにいられる。カードの布陣、通信環境、荷物の総量。旅立つ前に整えておくべきことを整えておけば、あとは余計なことを考えず、旅そのものに集中できる。クアラルンプールという寄り道の街は、その集中を作り出すための、最初の静かな儀式なのかもしれない。


この旅で使ったもの

eSIM 日本にいるうちに設定を済ませておいた。空港を出た瞬間から地図が動く。それだけで、旅の最初の緊張が一つ消える。
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クレジットカード クアラルンプールの滞在中、現金を使う場面は一度もなかった。ホテルも、レストランも、移動も、カードで完結した。複数枚の使い分けが、海外での安心感をつくる。

カメラ α6400 + 18-135mm。この旅での主力レンズ。ズームの自由度は高く、様々なシーンに対応できた。広角の物足りなさは、次の旅への宿題になった。


機体が滑走路を離れ、窓の外の光が徐々に小さくなっていく。次に地上に降り立つのは、9年ぶりに訪れるロンドンだ。心と身体を整えたこの状態のまま、あの街の空気を吸いに行く。

次の目的地はロンドンだ。


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