最後の夜は、空港で。6カ国周遊の終着地、バルセロナ一人旅の記録

グエル公園のシンボルであるトカゲの噴水。色とりどりのタイルで覆われている 旅の記録
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クアラルンプールに始まり、ロンドン、プラハ、ウィーン、ヴェネチアと歩いてきた40歳の周遊も、いよいよ6カ国目。終着の街はバルセロナだ。

ヴェネチアのマルコ・ポーロ空港から便に乗り、6月1日の15時、バルセロナに到着した。ここで2泊3日を過ごし、最後の夜は宿を取らずに空港で朝を待つ。そんな締めくくりまで含めて、この街での時間を記録しておく。


バルセロナ到着と、初日の夜

空港では、Klookで事前に購入していたオラバルセロナトラベルカード(48時間)を受け取る。これで市内の移動はしばらく心配ない。地下鉄に乗り、向かったのは1泊目の宿であるハンプトン・バイ・ヒルトン・バルセロナ・フィラ・グラン・ビア。チェックインを済ませ、まずはシャワーを浴びて一息つく。

ハンプトン・バイ・ヒルトン・バルセロナ・フィラ・グラン・ビアの客室。ベッド脇にBillingham CANVAS 305を置いた

メインの荷物であるBillingham CANVAS 305は部屋に置き、Brady AVONだけを提げて街へ出る。中身はα6400と財布とモバイルバッテリー。いつもの、いちばん身軽な装備だ。夕方の街を、軽く撮りながら歩く。

一人前のパエリアを求めて

スペインに来たからには、パエリアを食べたい。ただ、パエリアは二人前からという店が多く、一人旅にはややハードルがある。事前に一人前から注文できる店を調べておいた。

向かったのはRestaurant Milagros。シーフードパエリア、タコのガリシア風、そしてチーズケーキ。初日の夜としては、これ以上ない組み合わせだった。

バルセロナのRestaurant Milagrosで注文した一人前のシーフードパエリア
Restaurant Milagrosのタコのガリシア風。オリーブオイルとパプリカの香り

食後は行き先を決めずに街をぶらぶらと歩き、ホテルへ戻ってのんびりと過ごした。移動日の夜は、これくらいの緩さがちょうどいい。


2日目 ガウディ建築と街の喧騒

朝食を済ませてチェックアウト。初日から使っているオラバルセロナトラベルカードで、地下鉄で街の中心部へ移動する。この日は夕方に次の宿へ移るため、荷物預かりアプリBounceで見つけた店にBillinghamを預け、日中は再びBradyひとつで歩く。

一方で、この街の喧騒には別の顔もある。少し離れた場所で、ひったくりの現場を目撃した。被害に遭ったわけではないが、Bradyを常に体の前に置く自分の習慣は間違っていないと再確認する。

その直後、思いがけないことが起きた。街中で、ポルノグラフィティの岡野氏とすれ違ったのだ。声はかけなかった。ただ、地球の反対側の路上で一瞬交差したという事実だけで、この日は十分だった。

まずはカサ・ミラへ。写真で何度も見てきたはずのファサードは、実物の前に立つとまるで違う。石灰岩の外壁は波が固まったような曲面を描き、直線というものがどこにも見当たらない。バルコニーの鉄柵は海藻を思わせる有機的な形で、屋上に並ぶ煙突は兜をかぶった戦士のようにも見える。ガウディが自然の造形をそのまま建築に持ち込んだという話を、頭ではなく目で理解した。

グラシア通りから見上げたカサ・ミラの波打つ外観

歩いてグラシア通りを進むと、今度はカサ・バトリョが現れる。骨を思わせる柱、鱗のような色ガラスのモザイク、竜の背骨とも評される屋根の曲線。カサ・ミラの重厚な波と比べると、こちらは色彩と物語性が前面に出ている。同じ通りに並ぶ二つの建築の対比を、実際に歩いて比べられるのがグラシア通りの贅沢さだと思う。

カサ・バトリョのファサード。骨のような柱と色ガラスのモザイク

そのままグラシア通りを下り、カタルーニャ広場を抜けていく。噴水を囲んで観光客と地元の人が入り混じり、この街の中心らしい賑わいが広がっていた。

カタルーニャ広場の噴水と行き交う人々

そのままブケリア市場へ。入口を抜けると、まず出迎えるのは山のように積まれた果物と野菜だ。かぼちゃ、パイナップル、いちじく、ざくろ。色の洪水のような並びを、人の流れに押されながら眺めて歩く。

ブケリア市場、山のように積まれた果物と野菜の売り場

生ハムの店では、豚の脚がそのまま何本も吊るされ、部位や熟成年数ごとに値札がついている。隣の鮮魚店では、氷の上に地中海の魚が並び、店員が手際よくさばいていた。少し歩けば、串に刺した揚げ物やチュロス、色とりどりのクロケットが並ぶ惣菜の店もある。市場というより、食のテーマパークに近い賑わいだった。

ブケリア市場の精肉店に吊るされた生ハムの脚と値札

スペインまで来て、ハモン・セラーノを食べない選択肢はない。シャルキュトリーの店で、バゲットにハモン・セラーノを挟んでもらう。皮はぱりっと硬いのに、中はしっとりと柔らかい。そこに脂の乗ったハモン・セラーノが何枚も折り重なって挟まれている。紙袋に包んでもらい、市場の外の石畳に立ったまま頬張った。

塩気のあるハモン・セラーノを食べ終えると、今度は無性に飲み物が欲しくなる。暑さも手伝って、生搾りのオレンジジュースを一杯買った。カップいっぱいの濃いオレンジ色を、ストローで一気に飲み干した。

ブケリア市場で買った、生ハムがたっぷりサンドされたバゲット
ブケリア市場で買った生搾りオレンジジュース

暑さが本格的になってきた午後は、ライアン鈴木【英語エンタメチャンネル】の動画で紹介されていた店Kakigoriでかき氷を食べる。バルセロナでかき氷というのも妙な話だが、火照った体には正解だった。

バルセロナのKakigoriで注文したかき氷

夕方、預けていたBillinghamを回収し、2泊目の宿であるホテル・ビア・サンツ・バルセロナ、タペストリー・コレクション・バイ・ヒルトンへチェックイン。シャワーを浴びて一息つく。

ホテル・ビア・サンツ・バルセロナ、タペストリー・コレクション・バイ・ヒルトンの客室

夕食はホテルからほど近いCan Vilamaríへ。この日はイカ墨パエリアを選んだ。キャラメリゼした玉ねぎを添えたイカのグリル、締めはまたチーズケーキ。二夜連続のパエリアとチーズケーキだが、味の方向がまるで違うので、飽きるということがない。

Can Vilamaríのイカ墨パエリア。米の一粒まで黒く染まっている

食後、まだ時間があったのでサグラダ・ファミリアまで足を延ばした。この時期のバルセロナは日の入りが遅く、夜といってもまだ空は明るい。その薄明かりを背に、骨を思わせる白い彫刻に覆われたファサードと、工事用のクレーンをまとった尖塔を外から見上げた。中に入るのは、明日の楽しみに取っておく。夜の街を歩いてホテルへ戻る。

2日目の夜、まだ明るい空を背にしたサグラダ・ファミリアの受難のファサード。骨を思わせる白い彫刻と工事用クレーン

3日目 人の温もりと、旅の終幕

この旅では珍しく、この日だけは予定が決まっていた。グエル公園とサグラダ・ファミリア。サグラダ・ファミリアの単体チケットはKlookで完売していたが、グエル公園とのセット券なら予約が取れたので、プラハのホテルでそれを見つけて前もって買っておいた。行き先が決まっている朝は、それだけで気持ちの持ちようが違う。

グエル公園は広く、昼食をとる時間が確保できるかわからない。そう考えて、朝食会場でしっかり食べておくことにした。ブッフェだったので、もう少し食べようと料理を取りに行ったところ、補充をしていた年配のスタッフから日本語で話しかけられた。勧められるままにスペイン風オムレツを皿に取る。旅の終盤、こういう不意の温もりが、いちばん記憶に残る。

この日はチェックアウト後、荷物をホテルに預けて出かけた。移動は初日から使っているオラバルセロナトラベルカード(48時間)。地下鉄もバスも、これ一枚で気兼ねなく乗れる。

まずはグエル公園へ。プラハで手配していたチケットのおかげで、すんなり入園ゲートをくぐれる。

入ったのはカルメル通り側、公園の上部にあたる入口だった。棕櫚の並木道を抜けると、赤い建物が並ぶ広場に出る。周りはすでに大勢の観光客で賑わっていた。

広場の先で視界が開けると、波打つベンチが縁取るテラスが見えてくる。青・黄・白のトレンカディス(タイルの欠片を寄せ集める技法)が不規則に貼り合わされ、近くで見ると単なる破片の集合なのに、少し離れて座ると、ひとつの絵として立ち上がってくる。ガウディの造形は、建築というより地形に近い。柱も屋根も直線がなく、丘の斜面そのものが建築の一部として設計されている印象を受けた。

グエル公園のベンチを覆う、青・黄・白のトレンカディス(タイルモザイク)

このテラスからは市街と地中海が一望でき、その先の煙突越しに、建設中のクレーンをまとったサグラダ・ファミリアの尖塔が小さく見えた。この日の午後に向かう場所が、先に視界へ入ってくる。

グエル公園のテラスから見た市街と地中海。遠くにクレーンをまとったサグラダ・ファミリアの尖塔

そこから下っていくと、ドーリア式の太い柱が林立するヒュポスタイル・ホールに出た。かつて市場として使われていた場所らしく、天井には白いモザイクの円盤がいくつも埋め込まれ、柱の間を人々が行き交っていた。

グエル公園のヒュポスタイル・ホール。ドーリア式の柱が林立し、天井に白いモザイクの円盤が並ぶ

さらに階段を下ると、色とりどりのタイルで覆われたトカゲの噴水がいる。グエル公園の象徴として写真によく登場する、あの姿だ。実物は思っていたよりも小さく、口からわずかに水が垂れていた。噴水の先には、正門から続く大階段が広がっている。

グエル公園のシンボルであるトカゲの噴水。色とりどりのタイルで覆われている

そこから先は、決まった順路を追うのをやめた。案内板を頼りに気の向くまま歩き、正門近くではSALVEと書かれたモザイクの門柱や、ギターにインコを乗せた路上ミュージシャンにも出くわした。緑色の鮮やかな鳥は、ギターの先で微動だにしない。ガウディの建築と、こういう人の営みが同じ敷地に同居しているのも、この公園らしいところだと思う。予定は決まっていた日のはずが、結局この公園だけでかなりの時間を使った。


グエル公園を出て、サグラダ・ファミリアの近くまで移動する。入場の時間までまだ間があったので、近くのカフェでアイスコーヒーとチーズケーキを頼み、しばらく過ごした。この旅で三度目のチーズケーキになる。

そして夕方、いよいよサグラダ・ファミリアの中へ。これまで外から見上げるだけだったこの建物に、ようやく足を踏み入れる。

一歩入って、思わず足が止まった。堂内は、光そのものが二つに分かれている。西側の壁は赤・橙・黄の暖色に、反対側は青・緑の寒色に染まり、同じ空間の中で朝と夕、あるいは炎と水のような対比をつくっていた。夕方の西日が強い時間帯だったからか、暖色側は特に濃く、石の柱や壁にまで色が反射して、その一角だけが熱を帯びているように見える。

夕方のサグラダ・ファミリア内部。西日を受けた赤と橙のステンドグラスが石の壁を染める
青と緑の寒色に染まるステンドグラスと、差し込む光の筋

見上げれば、柱は上へいくほど枝のように分かれ、天井で星形に開いている。白い石が幾何学的に折り重なり、ひまわりのような装飾がいくつも連なる。樹木を模した「石の森」と呼ばれる理由が、写真ではなく体の実感として腑に落ちた。首が痛くなるまで、しばらく見上げていた。

上へいくほど枝分かれし、天井で星形に開くサグラダ・ファミリアの柱

主祭壇の上には、傘のように広がる天蓋の下に、十字架のキリスト像が吊られている。葡萄とランプに縁取られたその一点に、堂内の視線が自然と集まるように出来ていた。

サグラダ・ファミリアの主祭壇。天蓋の下に吊られた十字架のキリスト像

写真や映像では、この場所の何割かしか伝わらないのだと思う。光の色も、柱の高さも、実際に中に立って初めて意味を持つ。外から眺めるだけで済ませなくてよかった。旅の終盤、中に入ると決めた自分の判断を、素直に良かったと思える時間だった。誰もが一度は訪れるべき場所だと、私は思った。


外に出ると、まだ空には明るさが残っていた。歩き回って空腹を覚え、夕食にする店を探す。初日と2日目は一人前から頼める店を事前に調べておいたが、この日は通りすがりに気になった店に入った。アンコウのパエリアを一人前から頼めるか、席についてから確認する。ここは二人前からだという。最終日の夜でもあるし、そのまま頼むことにした。パエリアは調理に時間がかかる料理だ。前菜としてスペイン風コロッケも一緒に注文しておく。運ばれてきたコロッケは想定を超える大盛りで、それだけでも十分な量だった。続いて出てきたアンコウのパエリアも、聞いていた通り二人前の大きさで、最終日の夜は思わぬ満腹で幕を閉じた。食後のデザートを勧められたが、今回ばかりは丁重に断った。

最終日の夕食に出てきた二人前サイズのパエリア

帰路 ローマの経由地にて

翌6月4日の便は6時20分発。中途半端に眠るよりはと、この夜はホテルを取らなかった。荷物を回収し、ある程度街を歩いてから空港へ向かい、そのまま朝を待つ。Priority Passを持っていても、この時間ではラウンジが開いていない。事前にわかってはいたが、少し残念だった。とはいえ、旅の最後の夜を静かな空港のベンチで過ごすというのも、悪くない体験だった。

バルセロナを発ち、ローマで乗り継ぐ。トランジットの時間で、Billinghamに収まる程度のチョコレートをいくつか買った。機内持ち込みの手荷物と身の回り品、トータルの重量には限りがある。だから必然的に、持ち帰れるのはこの程度の量になる。帰ってから淹れるコーヒーの供くらいなら、その枠にも収まる。

ローマのトランジットで立ち寄ったFarinellaのパスタ。カルボナーラ風のリガトーニ

パスタを一皿味わったあとは、Priority Passでラウンジに入り、日本への帰路に就く前の時間を静かに過ごした。バルセロナでは使えなかった一枚が、ここでようやく役に立つ。

ローマの空港、Priority Passで利用したラウンジの店内

この旅で使ったもの

オラバルセロナトラベルカード 48時間有効の乗り放題カード。地下鉄・バス・トラムを気にせず乗り継げるので、グエル公園やサグラダ・ファミリアのような離れた場所を巡る日に向いている。
Klookで手配できる。

eSIM 6カ国目でも引き続きeSIMで通信を確保。空港を出た瞬間から地図が動く安心感は、最後の街でも変わらなかった。

クレジットカード セゾンプラチナ・ビジネス・アメリカン・エキスプレス®・カードを軸に、この街でも支払いはカードで完結した。

Priority Pass バルセロナの空港では時間が合わず利用できなかったが、ローマでのトランジットでラウンジに入り、最後の静かな時間を過ごせた。

カメラ SONY α6400 + 18-135mm。最後の街でも、静止画も動画もこの一台に任せた。旅の始まりから終わりまで、装備は増えも減りもしなかった。


クアラルンプールの雑踏から数えて、6つの街を歩いた。スーツケースのない旅は、最後まで速度を落とさなかった。空港のベンチで朝を待ちながら、次にどこへ行くかはまだ何も考えていなかった。

次の目的地がカナダになることは、この時は知る由もなく。

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