クアラルンプールに始まり、ロンドン、プラハ、ウィーン、ベネチアと歩いてきた一人旅も、いよいよ最後の街に着いた。6カ国を巡る旅の終着地はバルセロナだ。
ベネチアのマルコ・ポーロ空港から便に乗り、6月1日の15時、バルセロナに到着した。ここで過ごすのは2泊3日。最後の夜は宿を取らず、空港で朝を待つことになる。その締めくくりまで含めて、この街での時間を記録しておく。
バルセロナ2泊3日の旅程
先に全体の流れを書いておく。
- 1日目(6/1):ベネチアから到着し、Hampton by Hilton Barcelona Fira Gran Viaへ。夜はRestaurant Milagrosで一人前のパエリア。
- 2日目(6/2):カサ・ミラとカサ・バトリョを見比べ、ブケリア市場を歩く。夕方、Hotel Via Sants Barcelona, Tapestry Collection by Hiltonへ移動し、Can Vilamaríでイカ墨パエリア。夜はサグラダ・ファミリアを外から見上げる。
- 3日目(6/3):グエル公園を歩き、夕方サグラダ・ファミリアの内部へ。最後の夕食は二人前のパエリア。この夜はホテルを取らず、空港へ向かう。
- 帰路(6/4):6時20分発の便でローマを経由し、日本へ。
1日目|ベネチアからバルセロナへ
空港では、Klookで事前に購入していたオラバルセロナトラベルカード(48時間)を受け取る。これで市内の移動はしばらく心配ない。地下鉄に乗り、向かったのは1泊目の宿であるHampton by Hilton Barcelona Fira Gran Via。チェックインを済ませ、まずはシャワーを浴びて一息つく。
通信は6カ国目でも引き続きeSIMを使った。空港を出た時点から地図を開ける状態にしておけば、地下鉄への乗り換えもホテルまでの移動も迷いにくい。

メインの荷物であるBillingham CANVAS 305は部屋に置き、Brady AVONだけを提げて街へ出る。中身はα6400と財布とモバイルバッテリー。いつもの、いちばん身軽な装備だ。夕方の街を、軽く撮りながら歩く。
一人前のパエリアを求めて
スペインに来たからには、パエリアを食べたい。ただ、パエリアは二人前からという店が多く、一人旅にはややハードルがある。事前に一人前から注文できる店を調べておいた。
向かったのはRestaurant Milagros。シーフードパエリア、タコのガリシア風、そしてチーズケーキ。初日の夜としては、これ以上ない組み合わせだった。


食後は行き先を決めずに街をぶらぶらと歩き、ホテルへ戻ってのんびりと過ごした。移動日の夜は、これくらいの緩さがちょうどいい。
2日目|ガウディ建築と市場を歩く
朝食を済ませてチェックアウト。オラバルセロナトラベルカードで地下鉄に乗り、街の中心部へ移動する。夕方に2泊目の宿へ移るため、荷物預かりアプリBounceで見つけた店にBillinghamを預け、日中は再びBrady AVONひとつで歩いた。
一方で、少し離れた場所ではひったくりの現場を目撃した。被害に遭ったわけではないが、Bradyを常に体の前に置く自分の習慣は間違っていないと再確認する場面だった。その直後、街中でポルノグラフィティの岡野氏とすれ違うという、思いがけない出来事もあった。
カサ・ミラとカサ・バトリョ
まずはカサ・ミラへ。写真で何度も見てきたファサードだったが、実物の前に立つと印象がまるで違う。石灰岩の外壁は波が固まったような曲面を描き、直線をほとんど感じさせない。バルコニーの鉄柵は海藻のような有機的な形をしていて、屋上に並ぶ煙突は兜をかぶった戦士のようにも見えた。

歩いてグラシア通りを進むと、今度はカサ・バトリョが現れる。骨を思わせる柱、鱗のような色ガラスのモザイク、竜の背を思わせる屋根の曲線。カサ・ミラの重厚な波と比べると、色彩と物語性が前面に出ている建物だった。同じ通りに並ぶ二つの建築を、実際に歩いて見比べられるのがグラシア通りらしいところだと思う。

そのままグラシア通りを下り、カタルーニャ広場を抜けていく。噴水を囲んで観光客と地元の人が入り混じり、街の中心らしい賑わいが広がっていた。
ブケリア市場で食べ歩く
そのままブケリア市場へ。入口を抜けると、まず山のように積まれた果物と野菜が目に入る。かぼちゃ、パイナップル、いちじく、ざくろ。生ハムの店では豚の脚が何本も吊るされ、部位や熟成年数ごとに値札がついている。隣の鮮魚店では氷の上に地中海の魚が並び、店員が手際よくさばいていた。
スペインまで来て、ハモン・セラーノを食べない選択肢はない。シャルキュトリーの店で、バゲットにハモン・セラーノを挟んでもらう。皮はぱりっと硬いのに中はしっとり柔らかく、脂の乗ったハモン・セラーノが何枚も折り重なっていた。紙袋のまま、市場の外の石畳に立って頬張る。
塩気のあるハモン・セラーノを食べ終えると、今度は無性に飲み物が欲しくなった。暑さも手伝って、生搾りのオレンジジュースを一杯買う。カップいっぱいの濃いオレンジ色を、ストローで一気に飲み干した。


暑さが本格的になってきた午後は、ライアン鈴木【英語エンタメチャンネル】の動画で紹介されていた店Kakigoriでかき氷を食べた。バルセロナでかき氷というのも妙な話だが、火照った体には正解だった。
2泊目のホテルへ。夜のサグラダ・ファミリア
夕方、預けていたBillinghamを回収し、2泊目の宿であるHotel Via Sants Barcelona, Tapestry Collection by Hiltonへチェックイン。シャワーを浴びて一息つく。

夕食はホテルからほど近いCan Vilamaríへ。この日はイカ墨パエリアを選んだ。キャラメリゼした玉ねぎを添えたイカのグリル、締めはまたチーズケーキ。二夜連続のパエリアとチーズケーキだが、味の方向がまるで違うので飽きることがない。

食後、まだ時間があったのでサグラダ・ファミリアまで足を延ばした。この時期のバルセロナは日の入りが遅く、夜といってもまだ空は明るい。その薄明かりを背に、骨を思わせる白い彫刻に覆われたファサードと、工事用のクレーンをまとった尖塔を外から見上げる。中に入るのは翌日の楽しみに取っておき、夜の街を歩いてホテルへ戻った。

3日目|グエル公園とサグラダ・ファミリア
この旅では珍しく、この日だけは予定が決まっていた。グエル公園とサグラダ・ファミリア。サグラダ・ファミリアの単体チケットはKlookで完売していたが、グエル公園とのセット券なら予約が取れたので、プラハのホテルでそれを見つけて前もって買っておいた。行き先が決まっている朝は、それだけで気持ちの持ちようが違う。
グエル公園は広く、昼食をとる時間が確保できるかわからない。そう考えて朝食会場でしっかり食べておくことにした。ブッフェで料理を取りに行ったところ、補充をしていた年配のスタッフから日本語で話しかけられ、勧められるままにスペイン風オムレツを皿に取った。旅の終盤、こういう不意の温もりがいちばん記憶に残る。
この日はチェックアウト後、荷物をホテルに預けて出かけた。移動は初日から使っているオラバルセロナトラベルカード。地下鉄もバスも、これ一枚で気兼ねなく乗れる。
グエル公園を歩く
プラハで手配していたチケットで入園し、カルメル通り側の上部入口から歩き始めた。棕櫚の並木道を抜けると、赤い建物が並ぶ広場に出る。周りはすでに大勢の観光客で賑わっていた。
広場の先で視界が開けると、波打つベンチが縁取るテラスが見えてくる。青・黄・白のトレンカディス(タイルの欠片を寄せ集める技法)が不規則に貼り合わされ、近くで見ると単なる破片の集合なのに、少し離れて座るとひとつの絵として立ち上がってくる。柱も屋根も直線がなく、丘の斜面そのものが建築の一部として設計されている印象を受けた。
このテラスからは市街と地中海が一望でき、その先の煙突越しに、建設中のクレーンをまとったサグラダ・ファミリアの尖塔が小さく見えた。この日の午後に向かう場所が、先に視界へ入ってくる。

そこから下っていくと、ドーリア式の太い柱が林立するヒュポスタイル・ホールに出た。かつて市場として使われていた場所らしく、天井には白いモザイクの円盤がいくつも埋め込まれ、柱の間を人々が行き交っていた。
さらに階段を下ると、色とりどりのタイルで覆われたトカゲの噴水がいる。グエル公園の象徴として写真によく登場する姿だ。実物は思っていたよりも小さく、口からわずかに水が垂れていた。噴水の先には、正門から続く大階段が広がっている。
そこから先は、決まった順路を追うのをやめた。案内板を頼りに気の向くまま歩き、正門近くではSALVEと書かれたモザイクの門柱や、ギターにインコを乗せた路上ミュージシャンにも出くわした。緑色の鳥はギターの先で微動だにしない。予定は決まっていた日のはずが、結局この公園だけでかなりの時間を使った。
夕方のサグラダ・ファミリアへ
グエル公園を出て、サグラダ・ファミリアの近くまで移動する。入場の時間までまだ間があったので、近くのカフェでアイスコーヒーとチーズケーキを頼み、しばらく過ごした。この旅で三度目のチーズケーキになる。
そして夕方、いよいよサグラダ・ファミリアの中へ。これまで外から見上げるだけだったこの建物に、ようやく足を踏み入れる。
一歩入って、思わず足が止まった。堂内は光そのものが二つに分かれている。西側の壁は赤・橙・黄の暖色に、反対側は青・緑の寒色に染まり、同じ空間の中で対照的な色をつくっていた。夕方の西日が強い時間帯だったからか、暖色側は特に濃く、石の柱や壁にまで色が反射している。


見上げれば、柱は上へいくほど枝のように分かれ、天井で星形に開いている。白い石が幾何学的に折り重なり、ひまわりのような装飾がいくつも連なる。樹木を模した「石の森」と呼ばれる理由が、写真ではなく体の実感として腑に落ちた。首が痛くなるまで、しばらく見上げていた。

主祭壇の上には、傘のように広がる天蓋の下に十字架のキリスト像が吊られている。葡萄とランプに縁取られたその一点に、堂内の視線が自然と集まるように出来ていた。
写真や映像では、この場所の何割かしか伝わらないのだと思う。光の色も柱の高さも、実際に中に立って初めて意味を持つ。外から眺めるだけで済ませなくてよかった。
最後の夕食は、二人前のパエリア
外に出ると、まだ空には明るさが残っていた。歩き回って空腹を覚え、夕食にする店を探す。初日と2日目は一人前から頼める店を事前に調べておいたが、この日は通りすがりに気になった店に入った。アンコウのパエリアを一人前から頼めるか、席についてから確認する。ここは二人前からだという。最終日の夜でもあるし、そのまま頼むことにした。
パエリアは調理に時間がかかる料理だ。前菜としてスペイン風コロッケも一緒に注文しておく。運ばれてきたコロッケは想定を超える大盛りで、それだけでも十分な量だった。続いて出てきたアンコウのパエリアも、聞いていた通り二人前の大きさで、最終日の夜は思わぬ満腹で幕を閉じた。食後のデザートを勧められたが、今回ばかりは丁重に断った。

初日は一人前を頼める店を探し、最後の夜は二人前と聞いてもそのまま注文した。同じパエリアでも、この三日間で少しだけ旅の仕方が変わっていた。
最後の夜は、空港で
翌6月4日の便は6時20分発。中途半端に眠るよりはと、この夜はホテルを取らなかった。荷物を回収し、ある程度街を歩いてから空港へ向かい、そのまま朝を待つ。Priority Passを持っていても、この時間ではラウンジが開いていない。事前にわかってはいたが、少し残念だった。とはいえ、旅の最後の夜を静かな空港のベンチで過ごすというのも、悪くない体験だった。
ローマでようやくPriority Passを使う
バルセロナを発ち、ローマで乗り継ぐ。トランジットの時間で、Billinghamに収まる程度のチョコレートをいくつか買った。機内持ち込みの手荷物と身の回り品、トータルの重量には限りがある。だから必然的に、持ち帰れるのはこの程度の量になる。帰ってから淹れるコーヒーの供くらいなら、その枠にも収まる。
空港内のFarinellaで、カルボナーラ風のリガトーニを一皿。味わったあとは、Priority Passでラウンジに入り、日本への帰路に就く前の時間を静かに過ごした。バルセロナでは使えなかった一枚が、ここでようやく役に立つ。

この6カ国周遊で使っていたカードは、現在の旅でも役割を分けて使い続けている。ホテル、空港、決済、現金。それぞれを一枚に背負わせない構成だ。
クアラルンプールの雑踏から数えて、6つの街を歩いた。最後の夜はバルセロナの空港で朝を待った。次にどこへ行くかは、まだ何も考えていなかった。
次の目的地がカナダになることは、この時は知る由もなく。




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