バンフの朝は、静かだった。
ロッキー山脈の懐に抱かれたバンフ、そしてレイクルイーズ。あの圧倒的な大自然の前では、人間はひどく小さい。エメラルドグリーンの湖面、万年雪を頂いた山稜、針葉樹の森が続く地平線。カメラを構えながら、シャッターを切ることをしばらく忘れた。


その余韻を胸に残したまま、深夜便でカルガリーを発った。目的地はモントリオール。カナダ東部の、フランス語が飛び交う大都市だ。
空港からスノードン駅へ
夜が明けるころ、モントリオール・トルドー国際空港に降り立った。
空港から市内へは747番バスを利用した。地下鉄と組み合わせれば、タクシーを使わずとも市内中心部まで移動できる。スーツケースのない身軽さが、こういう場面でも生きてくる。
ホテルの最寄り駅より一つ手前、スノードン(Snowdon)駅で地下鉄を降りた。少し遠回りになるが、街を歩きながらホテルへ向かうためだ。旅先ではいつも、移動の中に余白を作りたいと思っている。
大都市の洗礼
駅の出口を出た瞬間、空気が変わった。
バンフやレイクルイーズの広大な自然から一転、密集した歴史的な建築物、行き交う人々の多さ、フランス語と英語が混ざり合う喧騒。カルガリーの整然とした街並みとも違う、モントリオール独特の「完成された大都市」の圧が、一気に押し寄せてきた。
自然の近さから都会の密度へ。この急激なギャップが、旅を面白くする。
α6400 × 11mm F1.8 で切り取る、街の日常
ホテルへ向かう道すがら、α6400を首から下げて歩いた。レンズは11mm F1.8の単焦点。
観光地ではなく、スノードン周辺のローカルな日常がそこにあった。路地の奥に続く石畳、カフェのテラスで朝食をとる住人、古びた看板のフランス語。超広角の11mmは、こういう「街の奥行き」を切り取るのに絶妙に合っている。
この街は、歩けば歩くほど顔が変わる。観光スポットとローカルエリアが地続きで混在しているのがモントリオールの面白さで、地下鉄一駅分を歩くだけで、まったく異なる空気の街区に出会う。
旅先での一瞬を美しく切り取るなら、上質な単焦点レンズやズームレンズの存在は大きい。 だが、十数万円もするレンズを旅のためだけに購入するのは、簡単な決断ではない。「今回の旅だけは最高の画質で残したい」と思うなら、無理に購入するより、必要な期間だけ借りるという選択もある。 余計なことを考えず、ただ純粋に旅に集中できる。それも大人の旅らしいアプローチだと思っている。 👉 GOOPASSで、次の旅に連れ出すレンズを探してみる
ホテルに荷物を預けて、旧市街へ
スノードン駅からホテルへ着いたのは、まだ午前中だった。チェックインには早すぎる時間だったが、荷物だけ預けてそのまま旧市街へ向かった。
最初に立ち寄ったのは「Tommy Café」だ。カフェラテとクロワッサンダマンド。深夜便明けの身体に、バターの香りと温かいコーヒーが沁みた。天井から垂れ下がるグリーン、白い漆喰の装飾、ステンドグラスの窓。壁には「EXIT」ではなく「SORTIE」の文字。窓の外をフランス語が飛び交う人々が行き交う。ここがカナダだということを、しばらく忘れそうになる。

腹ごしらえを終えて、旧市街へと歩き出した。α6400を首から下げ、Osmo Pocket 4を手に持ちながらの街歩きだ。写真はα6400、動画はOsmo Pocketと役割を分けているので、撮りたいものに応じてどちらかを構えるだけでいい。
石畳の路地、カラフルなファサードが続く通り、テラス席で昼食をとる人々。旧市街は歩くだけで絵になる被写体の連続だった。
セントローレンス川沿いのオールドポートまで足を伸ばすと、「La Grande Roue de Montréal」の大きな観覧車が見えてきた。乗り込む気はなかったが、川沿いの開けた空間から見上げるその大きさは、なかなかの迫力だ。旅先で予定していなかった景色に出会う瞬間が、一人旅の醍醐味だと思っている。
撮影しながらぶらぶらと歩き回り、最後にノートルダム大聖堂へ戻った。今度は中に入る。



扉を開けた瞬間、息を呑んだ。
青緑を基調とした天井がアーチを描きながら奥へと続き、正面の祭壇が青いライトアップと金の装飾で浮かび上がっている。側廊に目を向ければ、暗闇の中にステンドグラスが色鮮やかに光る。螺旋階段の彫刻の精緻さ、見上げるほど高い天蓋。どこにカメラを向けても、それだけで絵になった。
11mmの広角レンズで空間全体を収めながら、細部に近づいて彫刻のディテールを切り取る。薄暗い空間でもF1.8の明るさがノイズなく描写してくれる。パリのサント・シャペル、バルセロナのサグラダ・ファミリア、そしてここモントリオールのノートルダム大聖堂。旅で訪れた聖堂の中で、最も長く留まってしまった場所かもしれない。
翌日|Kouing Amann Bakeryからサンローラン通りへ
翌朝は「Kouing Amann Bakery」からスタートした。
クイニーアマンはブルターニュ地方発祥のフランス菓子だが、モントリオールのフランス文化圏でこれを食べるのは妙に腑に落ちる。バターと砂糖がカラメル状に焼き上がった生地は、外はパリッと中はしっとり。コーヒーと合わせて、ゆっくりと2日目の朝が始まった。

腹ごしらえを終えてサンローラン通り(ブルバール・サン=ローラン)へ向かった。ウォールアートの宝庫だ。ビルの壁面を埋め尽くす大型のストリートアート、細い路地に描かれた無名のグラフィティ。街そのものがギャラリーになっている。11mmの広角で壁全体を収めながら、細部に寄ってディテールを切り取る。単焦点の面白さを、こういう被写体で改めて実感する。

ぶらぶらと歩いているうちに「Dispatch Coffee」を見つけた。引き寄せられるように入り、コーヒーを一杯。急ぐわけでも、予定があるわけでもない。気になった店に入り、飲み終えたらまた歩き出す。一人旅の時間の使い方として、これ以上のものはないと思っている。
F1グランプリと重なった街の熱気
ちょうどこの時期、モントリオールではF1カナダグランプリが開催されていた。
街中にF1カラーが溢れ、世界中からファンが集まる独特の熱気。ホテルの価格が軒並み高騰していたのもそのせいだ。
1泊目はSpark by Hilton Montreal Midtown、2泊目はSpark by Hilton Montreal Brossardに泊まった。どちらもヒルトン系列のシンプルなブランドで、客室アップグレードはないが、パンやシリアルなど軽めの朝食は宿泊者全員が利用できる。ただ旅の主役はあくまで街だ。ホテルは身体を休める場所として割り切れば、十分に機能する。むしろこういうときこそ、日中の街歩きに全力を注げる。
カナダ人の気質
旅を通じて気づいたことがある。
カナダ滞在中、通りすがりの見知らぬ人から「その服装、素敵だね」「好きだな」と声をかけられない日が一日もなかった。カルガリーでも、モントリオールでも、バンクーバーでも。老若男女問わず、気に入ったものを素直に口にする。それがカナダ人の気質なのだと、旅の終わりに気づいた。
旅先で見知らぬ人と言葉を交わす瞬間が、一人旅を豊かにする。荷物が軽いほど、そういう偶然の出会いに開かれている気がする。
おわりに
バンフの静寂からモントリオールの喧騒へ。カナダという国の振り幅の大きさに、改めて驚かされた旅だった。
大自然も、都市も、どちらも「旅の景色」として等価に存在している。それを身軽なスタイルで、自分のペースで歩く。そのことの豊かさを、モントリオールはあらためて教えてくれた。
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